B-LIFE インタビュー後編 吉田直嗣先生/長拳螳螂門

 

前編から引き続き 吉田直嗣先生の台湾での修行時代のお話を聞かせて頂きます。

(沖縄での長拳螳螂門セミナーの集合写真)

【10年間住み込みでの苦労話】

 

伊覇:台湾での修行時代で思い出などありますか

 

吉田先生:こういう話をすると申し訳ないですが僕が住んでいた地下室は何というか…

 

伊覇:僕も台湾には4年住んでいたのでわかります。台湾特有の湿気やほこりっぽさですね。

 

吉田先生:そうです。僕がいたときは洗濯機も温水器もなかったですから

冬も水で洗濯も洗濯板で。

 

伊覇:それはすごい経験ですね。そういった修業時代を過ごされたのですね。

 

吉田先生:そうです。ほんとにお坊さんみたいな生活というか。

テレビもありませんでしたし、ベットもベニヤ板の簡易式で。

 

 

伊覇:そうですか。その生活が10年続いたのですね。 
2008
年に高老師が青島に帰られる直前まで習っていたのですね。

 

 

吉田先生:2006年までですね。それからは通いでいっていました。

 

伊覇:中国武術の制度の事である程度10年ほど修行されたら自分で道場を開きなさい。などそういう事はあるのですか?

 

 

吉田先生:いえ、私が10年住み込みでいましたが
高老師自身はそのだいぶ前から自分で教えなさい。とおっしゃっていました。

僕が自分でそこを出た理由は商売をしていたからなんです。

道場から職場に通うといろいろ弊害がでたので高老師に別のところに住みますといいました。

 

伊覇:なるほどそういう経緯があったのですね。

 

 

【吉田先生と平川師範との会話】

 

伊覇:平川師範今までの話を聞いていていかがですか?

 

 

平川師範:やっぱり。苦労されてますね。(笑)

 

吉田先生:いやー楽しかったですよ。(笑)

 

 

平川師範:日本でやる修行とは違いますね。私のはまだまだ甘いですよ。

 

伊覇:言葉は失礼かもしれませんが吉田先生のようなレア(希少性の高い)方はなかなか今いらっしゃらないのではないでしょうか?

 

平川師範:本当そうですね。いないでしょうね。

みんな生ぬるいというか形だけの人が多いですよね

私も好きでやっていますけどなかなかそこまではできませんよ。(笑)

 

 

吉田先生:いやー僕も生ぬるいと思いますよ!(笑)

 

伊覇:いえいえそんな事はないと思いますが。

 

平川師範:空手もそうなのですけど。華やかな部分だけとりだたされていますけど。

私は沖縄の空手の普段の生活や生き方やそのような地味さを伝えていきたいと思っています。

そういう所を発信していかないと沖縄の文化としての空手は残っていかないと思います。

 

強い弱いだけではなくて日々の稽古をしていくと空手の大事なこと。精神性や技が身につくと思うんです。

中国武術も空手も同じでそういう部分も皆さんに気づいてもらいたいと思っています。

 

吉田先生:そうですね。そういった大事な部分を飛ばして習おうと思っている方が増えているように感じます。

今おっしゃっているようにこちらの武術では「一日師と呼んだら生涯自分の父だと思いなさい」という言葉あります。

 

まさに平川先生はそうですね。やっぱり渡口先生をお父さんのように思っていらしゃる。

 

僕も高先生のことをそういう風に思っていますしさらに高老師もご自身も師をそう思って尊敬していらっしゃいました。

そういった技以前の大事な心の在り方を伝えていくのが指導者として大事なんではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

(MASTER NAOTUGU YOSHIDA)

【年代を重ねて変わる心境の変化】

 

伊覇:生まれた国が違う武道、武術ですが実践されて根源に流れる部分は同じだと感じていらっしゃるのですね。

吉田先生は10代、20代、30代、40代と武道を修行されていますが時がながれていますが学ぶ年代によって心境の変化はありますか?

 

 

 

 

 

吉田先生:あります。10代は人に勝ちたい。と自分の欲がでていました。試合に出てトロフィーをもらって自分の先生を喜ばせたい。そういう試合のための稽古をやることが多かったです。

 

3回目に全日本で優勝した時、骨折を3カ所ぐらいしていたんですが、その時の決勝の自分に負けた相手がぴんぴんしてたんですよ。

それを見た時に自分の中でハッと気が付いたことがあるんです。

 

今、講習会の時など外国人の人に教える時にどうして武術をされんですか?試合をする格闘技ではなくて武術をするんですか?と聞いたときにこたえれない方が多いんですよ。

 

それを置き換えると自分が気が付いたことなんですが、四角のリングの中でする試合は勝つ為の練習なんですよ。

 

「勝つ」為の練習をするという事は、殴る蹴るの練習をする。一方で武術や平川先生の空手もですがその稽古は受けから稽古するんです。これは勝つ為の稽古でなくて負けないための稽古をしているんです。

勝つ事と負けない事は似ているんですけど全然違うものでして。

 

時として勝たなくてもいい時があるし勝ってしまってはダメな時もあるんですね。

 

 

伊覇:なるほど、勝つ為の稽古ではなくて負けないための稽古ですか。

 

 

吉田先生:僕が指導する時の事です。

例えば剛柔流では小手鍛えがありますよね?中国武術でもありますが これはなんで鍛えるとおもいますか?

ついてきたときに相手が痛いと感じる。蹴った時にも同じです。

この状態を僕はベストだと思っています。相手が攻め込めない状態ですね。

そこを消化して稽古してくださいとお伝えします。

 

そこをいつも覚えていれば間違った方向にいきませんよ。と

 

負けないためにどうすればいいのか

 

伊覇:それが吉田先生の「勝つ為の格闘技ではなく負けないための武術」という言葉が出てくるのですね。

いつごろでしょうか?吉田先生が試合で勝ちたいという気持ちとそこから負けないための武術に変化してきたというのは?

 

吉田先生:ずっとでした(笑)ずっと試合で勝ちたいとばかり思っていました。30代ぐらいからだ思います。

頭の中でもそれまでもいろいろと考えていました。

 

伊覇:いろいろと試行錯誤しながら指導されてきたのですね。

 

吉田先生:やっぱり平川先生が動画でされている様に受ける 流す 避ける を指導するようになりました。

特に子供や女性の指導を始めた時からそれを意識しだしました。

例えば、その様な方たちに突きや蹴りを教えたところで180㎝の大男にそれが効くかといえばたかが知れていますよね。

それを例えば鬼ごっこするから捕まえられない様に逃げてごらん。と指導します。

その方が外で襲われた時など素早く対応できます。逆に突きや蹴りだけを教えると相手に立ち向かっていく勇気はあってもそこを離れる知恵はつきませんよね。

 

 

 

【中国武術家からみる現代のいじめに対する答え】

 

伊覇:日本でもいじめが社会問題になっていまして。立ち向かいなさいという人もいるのですが、逃げてもいいんだよっていう教え方もあります。僕はそっちの方なんですが。

 

吉田先生:そうですね。

 

伊覇:逃げるっていうのはその場から逃げるという事も出し、今の現状からちょっと離れてみるっていう事で

  客観的に状況をみてまた生きていけるようになると思っています

 

吉田先生:さっきの話でいうと「勝つ為に」という事はいじめっ子に立ち向かっていくことで。それが単純に相手が一人だったらいいのですが。今は複雑ですよね。時には先生までも加わってしまって。そういう時にぼくは負けないことが大事だと思っています。

 

伊覇:はい。なるほど

 

吉田先生:僕はいじめにおいて負けないという事は、「死なない」という事だと思っています。

自分がいじめられていても自分の心が折れていなければ、その場を逃げても負けたことにはならないと思っています。

生きていればまたやることができる。

 

現在吉田先生は、台湾を拠点に指導し、日本、沖縄にも講習会を開催しています。

今後の先生の目的は自分を見つめなおしていこう。と」考えているとのことです。

平川師範との合同セミナーにも意欲的です。

 

 

【番外編 インタビューを終えて】

 

平川師範:私も吉田先生の螳螂拳を稽古したいです(笑)

 

吉田先生:(笑)合同稽古会という事で是非お願いします。

 

平川師範:私も年で長くないですがもっと勉強したいです。

 

吉田先生:よく平川先生ともお話するのですが(空手と)にているところ多いですね。

もちろん、型だけみれば全く違うものですけど解裁だったり分解組手をみると中身の部分がすごく似ていますのね。

 

平川先生:私も吉田先生の動画を見るたびに似ているなと思う事があるんです。

柔らかい動きとか関節蹴りとか。そういう所があれっ似ているなと。

うれしいです。

 

【最後に平川師範から】

 

まだ知り合って間もないですが吉田先生とは昔からの間柄でのような気持ちです。

私は空手が好きで空手ばっかりやっていた人間で。

組織や支部を増やすとかではなくて。

 

渡口先生のことを皆さんに知ってもらいたいというだけでやっています。

本当に理解してもらえる方と後世に残していきたい一緒にやっていきたいそう思っています。

これは同じ気持ちの人間でしかできないとおもいます。

今日吉田先生とお話してよし頑張ろうと気持ちになりました。

 

 

 

 

何年できるかわかりませんが皆さんがいてくれるからそれを一つの励みにしてやっていけるような生き方なり稽古をしていきたいと思います。

今回のインタビューはこの辺で終わっていきます。

吉田先生、平川師範ともにありがとうございました。

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